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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1726号 判決 1977年1月25日

原告

福田博

右訴訟代理人

平野智嘉義

外二名

被告

鈴木喜代一

外一名

右訴訟代理人

北村哲男

外一名

主文

被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の土地建物について、宇都宮地方法務局小山出張所昭和四六年九月二二日受付第一一八六五号の停止条件付賃貸借権仮登記の抹消手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

主文と同旨

二、被告高橋徳磨

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、原告の請求原因

1  訴外本所運送株式会社は、別紙物件目録記載の土地建物(以下本件土地建物という)の所有者であつたところ、昭和四五年二月二七日訴外永代信用組合に対し、金一億四〇〇〇万円の借入金の担保として右土地建物に抵当権を設定し、同日その旨の登記手続を了した。

2  本件土地建物は、その後右抵当権に基づいて競売に付され、原告において、昭和五〇年七月二八日これを競売し、同年九月一七日所有権移転登記手続を了した。

3  他方被告らは、昭和四六年九月二〇日、訴外本所運送株式社との間で、本件土地建物について、期間を三年、根抵当債務の不履行を条件とする停止条件付賃借権設定契約を結び、同年九月二二日に請求の趣旨記載の仮登記手続を了した。

4  よつて、原告は被告らに対し、右停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続を求める。<以下省略>

理由

一原告の請求原因事実については、被告高橋との間では当事者間に争いがなく、同鈴木については、民事訴訟法一四〇条三項により、これを認めたものとみなす。

二右によれば、被告らの有する賃借権は本件抵当権登記の後に登記されたものではあるが、その期間が土地及び建物のいずれについても三年である(なお民法三九五条との関係では土地につき借地法二条の適用はなく、本件土地についても期間三年の賃借権を肯定すべきである)から、本来は、民法三九五条本文により、抵当権者、ひいては競落人(原告)に対抗し得べきものであるところ、右賃借権が停止条件付の仮登記のものであるため、その対抗力に争いが生じているので、以下この点について考える。

三元来、抵当権の有する機能からすれば、その登記後に、抵当物件につき設定せられた賃借権は、右抵当権者、ひいては競落人に対抗し得ない筋合であるにもかわらず、民法三九五条本文が、右の場合においても、いわゆる短期賃借権についてはその対抗力を認めたのは、価値権たる抵当権に対し、一定の限度で、用益権たる賃借権との調節を図つたものと解されるところ、たとえ停止条件付の仮登記にとどまるものであるにせよ、条件が成就して本登記をなせば、当該賃借権は、右仮登記の時点にさかのぼつて本来の効力を生じ、右三九五条本文の企図する調節の状態に立戻るのであり、しかも叙上短期賃貸借の存在に困つて抵当権者が損害を蒙るときは、同人は右三九五条但書の解除の訴によつて右賃貸借を消滅させ得る途も開かれているのであるから、本件の如き停止条件付仮登記の賃借権にも、民法三九五条本文の保護が与えられるべきだとする被告高橋の主張にも一理なしとしない。

四しかし翻つて考えてみると、当該停止条件付賃借権が真実用益を目的として設定されたものであつたとしても、多くの場合、競落後の思わぬときに賃貸借が効力を生ずることとなり、即ち、抵当権が静止している間は用益せず、抵当権が活動を開始した後に賃借権が実効を発揮するというのでは、価値権と用益権の調節という前叙の趣旨を逸脱し、しかもこれを除去しようとすれば、抵当権者は解除の訴という重い負担を負わざるを得ないというのは、右制度の趣旨からみて権衡を失するものというべきである。

しかも、一般に不動産についての停止条件付賃貸借による仮登記は、金融担保目的のものであることが通例であるところ、前判示の事実関係によれば、本件においても、被告らのそれは、被告らの訴外本所運送株式会社に対する根抵当権付債権について、その債務不履行を停止条件にするというものであるから、その用益性は甚だ乏しいものとみるべく、本件仮登記賃借権の保護性は、本件抵当権、ひいては本件競落人の権利と対比し、甚だ弱いものというべきである。

五叙上判示の諸点を比照総合すると、民法三九五条本文の適用にあたり、当該賃借権が停止条件付仮登記のものである場合には、一応仮登記の存する以上、原告第一次主張の如く競売開始決定時までに本登記の存することまでは、これを要しないものと解すべきであるが、用益権との調節という観点上、右賃借権については、競売開始決定のときか、おそくとも競落許可決定のときまでに、その停止条件が成就し、右賃借権が現実に発生してその用益性が充足されていることを要し、然らざる限り右三九五条本文の保護を受けないものと解するのが相当である。

しかるに、本件においては、右の要件を具備したとの被告らの主張立証は存しないから、被告らはその賃借権を原告に主張し得ず、従つて被告らに対し、右賃借権仮登記の抹消を求める原告の請求は理由がある。

六よつて、原告の被告らに対する本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(小谷卓男)

物件目録<省略>

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